DJポリスが教えてくれた、セキュリティ教育の勘所
FIFAワールドカップのコートジボワール戦、開催日が日曜日とあって、東京・渋谷のスクランブル交差点は、800人の警察官を動員して警備にあたるとの報道発表がありましたね。渋谷のスクランブル交差点といえば、2013年に話題となった「DJポリス」の事例。
下手をすれば大混乱に陥りがちな状況を、巧みな話術で上手く誘導した成功事例は、あちこちのマスコミに取り上げられ、反響を呼んだことは記憶にも新しいと思います。従業員に対するセキュリティ教育もこれと似たところがあって、業務命令として一方的に押しつけるだけでは、なかなか思うようにはいきません。
従業員全員にセキュリティの重要性を理解してもらい、ルールの遵守を徹底してもらうには、私達はDJポリスの事例から大いに学ぶべきです。
会社は学校や軍隊とは違います
そもそも、ルールを守らない従業員がいるのは、入社の前提が「会社に絶対的に従う」ことではないからです。
学校は「先生の言うことに従う」ことを了解しての入学が前提です。また、軍隊は「上官の命令に絶対服従」が前提であり、軍の命令に従うことを了解しての入隊が前提です。しかし、会社となるとどうでしょうか?
大人社会のルールとして、会社の命令に従うということはあるものの、学校や軍隊のように「絶対服従」というほど無条件に従うという考えは誰も持っていないはずです。中には、「尊敬する社長の言うことには何でも従います!」というような社員もいるかもしれませんが、大方の従業員は、納得すれば従うが、納得できないことには従わないか、従っているフリをするものです。
会社の場合は、学校や軍隊と違って「絶対服従」することを前提として入社しているわけではないので、学校や軍隊で行われるような、いわゆる「教育」は馴染みません。そもそもの前提が違っているのですから、それぞれの前提に合わせたやり方をしなければ、上手くいかないのは当然です。
従業員が喜ぶコト・話題をセキュリティ教育に採り入れよう
DJポリスの事例は、まさにこのようなケースとよく似ています。渋谷に集まったほとんどの人達は、一般常識として、社会のルールに従うべきことを知っています。しかし、誰かに命令されて盲目的に従うという考えはなく、たとえ警察官の命令でも、納得できなければ従わないか、従っているフリをするだけでしょう。
このような群衆を上手く誘導し、警察側が期待する行動を実現できたのは、DJポリスの巧みな話術による功績が大ですが、群衆が納得して行動するよう誘導することができたのは、群衆が素直に受け入れたくなるような言葉を投げかけたことにあることは、既にマスコミなどで取り上げられているとおりです。
ストレートに表現したのでは素直には受け入れがたいことも、言葉の投げかけ方を変えることによって、すんなり受け入れてしまうという事例は枚挙にいとまがありません。広告コピーの力で購買意欲を喚起する販売促進の分野では日常的に行われていることですが、「人」を相手にしているということでは、渋谷の事例も、販売促進の分野における事例も、そして、セキュリティ教育の事例も全く同じです。
セキュリティ教育といえど、それを受ける人が素直に受け入れ、自ら積極的に参加してくれるよう、セキュリティ教育の実施方法自体の見せ方や言葉の投げかけ方を工夫すれば、ストレートに教育を受けさせるよりは、ずっと効果が期待できるはずです。
そして、従業員が素直に受け入れやすいのは、自分にとって嬉しいことや楽しいこと、また、人に教えたくなることなど、「マズローの欲求階層」に沿った事柄です。自分が求めるものが目の前にあれば、それを求めたくなるのが人の心理です。セキュリティ教育を成功させたければ、従業員が自ら「それが欲しい」と思ってしまうようなモノ・コトを含めるべし。
DJポリスの事例は、まさにこのことを教えてくれていると思います。
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