住吉区長の失敗から学ぶ、標的型メール訓練のやり方
大阪市住吉区の区長が、2014年5月に市立小で開かれた防災学習のあいさつ中に突然、失神して倒れたふりをして児童を驚かせた。として、保護者から抗議文を出されたとのこと。
「緊急時の対応を考えてほしかった」のだそうですが、学校側に事前の相談もなく、児童の眼前でこのようなことをすれば、さすがに抗議をされても致し方ないでしょう。区長という立場を考えれば、あまりにも軽率な行動だったと言えるかと思います。
告知したら訓練にならない。という考えは一理あるけれど・・・
災害は予告なく、突然襲ってくるものです。同様に標的型メールも、事前の予告なく、突然送られてくるもの。
だから、訓練をするなら事前の予告などせず、抜き打ちでやらなければ効果がない。という考え方があります。この考えは一理ありますが、何の予告もなく、いきなり実施してしまうと、住吉区長の事例のようなことが起きます。
訓練のつもりが、訓練どころの話ではなくなる。というのでは、まったくもって本末転倒でしょう。
では、抜き打ちで訓練をやることはいけないことなのか?というとそうではなく、住吉区長の事例のようなトラブルが発生するのは、事前に抑えておくべき事柄をきちんと抑えず、「抜き打ちでやればびっくりして、学習効果も上がるだろう」といった安易な考えで行動してしまうことにあります。
行動によって発生しうる結果を予測し、事前に手当てをしておく
訓練に限らず、何事も結果を予測し、その結果が問題となり得るようなものである場合は対応策を考え、事前に問題を回避するための手当てをしておく。
これはマネジメントの基本中の基本ともいえるものですが、住吉区長の事例の場合は、それができていなかったと言えます。
児童の目の前で失神のふりをすることによって、児童がどのような気持ちになるか?また、どのような行動を取りそうか?などの事柄を予測・想定し、それらに対する対処策・回避策があるか?といったことを考えれば、事前に関係者に相談しておく必要があることは容易に考え付いたのではないかと思います。
また、結果としてどうなることを期待するか?を考えれば、失神のふりをすることが行動として適切であるかどうか?も容易に想像がついたのではないかと思います。
抜き打ちで訓練を実施するのであれば、訓練の実施によって、現場でどのようなことが起こるか?また、その結果として、従業員はどのように考えるか?などを考えれば、少なくとも、各部署の上長に事前に根回しをしておくなどの対処策は必要でしょう。
記憶に残せるのは、一番印象深かった、たった一つのことだけ。と考える
仕事そしてプライベートにおいて、毎日たくさんの情報に晒されている私たちは、無意識のうちに多くの情報を捨て去るということを行っています。
いくら記憶力が良くても、目にするすべての情報を覚えているということなど不可能で、限られた情報しか記憶にとどめていないものです。
記憶に残せるのは、せいぜい、一番印象深かった、たった一つのことだけ。
現実にはそんなものです。住吉区長の事例も、人々の記憶に残るのは「区長が失神のふりをして騒ぎになった」ということくらいで、災害に対する危機意識の話など微塵も残りはしないでしょう。
標的型メール訓練の実施によって、従業員の記憶に残したいことは、「標的型メールには十分注意しなければならない」という危機意識です。
であれば、それが一番印象深いものであったと感じてもらえるよう誘導することが、訓練実施においてすべき事だと言えます。
抜き打ちの訓練実施によって、それができるのであれば、抜き打ちで訓練を実施するのも有りですが、そうでないなら、抜き打ちで訓練を実施すべきではないでしょう。
抜き打ちでの訓練実施によって現場が混乱する結果となり、訓練実施担当者に対する怒りが最も強く印象付けられた。というのでは、標的型メールに注意しなければならないといった意識など、どこかへ行ってしまいます。これでは折角の訓練も台無しです。
抜き打ちの訓練実施についての是非がよく言われますが、抜き打ちの訓練実施自体には良い・悪いはありません。
貴組織が描く訓練実施のシナリオにおいて、
抜き打ちの訓練実施というイベントが、
求める結果を得る方法として適切かどうか?
なのです。
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