なんでウチは誰も手を挙げないの?という組織への処方箋
標的型攻撃に関して、企業や組織の枠を越え、相互に情報を交換しあうことで、官民挙げて攻撃に対抗しようという活動があります。企業としては、こうした活動に参加しない理由はありませんが、ネックとなりがちなのが、「誰が窓口になるの?」ということ。
やること自体はイイことなんだけれど、そのような活動に参加するということは、1年365日、いつ来るかわからない情報を待ち受けしなければならないだけでなく、実際に攻撃があれば、第一線に立ってそれに対処しなければなりません。
企業側の窓口となる担当者になるということは、今の仕事に加え、そういった面倒な仕事も抱えなければならないのは目に見えて明らかなので、正直、誰も手を挙げたがらない。というわけです。
仕事なんだからやってよ。と言われてもねぇ・・・
大義名分としては誰もが「いいことだ」「やるべきだ」と思っても、いざ自分がそれをやらなければならないとなると、「いやだなあ」と思うことはあるものですよね。
「猫の首に鈴を付ける」というイソップの寓話がありますが、まさにそんな感じです。
こんな時にありがちなのは、結局、誰も手を挙げずに結論が先延ばしにされるか、「仕事なんだからやってよ」などと上から言われて、渋々引き受けさせられるといったパターンではないでしょうか。
施策に反対する理由もないし、社内での力関係の中にあっては断ることもできない。となれば、嫌々ながらも引き受けざるを得ません。でも、心の中では「仕事なんだからやってよ。と言われてもねぇ・・・」とつぶやいていたりします。
マネジメントの観点からすれば、これはこれで仕事が回るわけですから、表面上はそれでもいいかもしれませんが、担当者には不満やストレスが溜まることになりますから、長期的に見れば余り良いこととは言えません。
そもそも、誰も手を挙げないという状況や、誰かが貧乏くじを引かされる状況というのは望ましいものではないでしょう。
誰も手を挙げないのは、デメリットばかりだから。
では、新しい仕事に誰も手を挙げたがらないのは何故でしょう?と言えば、それはメリットがないからです。何の徳にもならないのに、プライベートを犠牲にしてまで仕事をしたいと考える人はいないでしょう。よほど変わった人で無い限りは、貧乏くじを自ら引くようなマネはしないのが普通です。
ということは、逆を言えば、その人にとってメリットがあれば、自ら手を挙げてもらえると考えることができます。
このようなとき、会社としては手当を出すとか、昇給するといったように、金銭的なメリットでモチベーションを引き出すという方法があります。これはこれで効果がある方法ですが、社会人は常に費用対効果を考えるクセを付けられているので、金銭的なメリットは打算的な考えを生み、金額の多寡でモチベーションが異なってきてしまうという欠点があります。
また、金銭的なメリットは一度それを得てしまうと、それが当たり前と感じるようになってしまい、モチベーションを維持するのに繋がらなくなってくるという欠点もあります。
そこで、継続期間などに応じて提供する金額を上げていくという方法もありますが、青天井で上げるわけにもいきませんし、周囲とのバランスもありますから、無条件で上げていくというわけにもいかないでしょう。さすがに、全てをお金で解決しようとしたらキリがありません。
では、金銭的なメリット以外の方法で手を上げてもらうにはどうすればいいでしょうか?ということに対する処方箋が、
プライスレス
というキーワードです。
プライスレスな価値を創造する方法
金額の多寡でモチベーションが変わってしまうなら、提供されるメリットをプライスレスなものにして、数値で推し量ることができないものにしてしまえばいいんじゃないの?というわけです。
例えば「かぐや姫」の物語では、かぐや姫と結婚したい貴族達が、命をかけて「竜の玉」を取りに行くというくだりがありますが、これなどはまさに、「かぐや姫と結婚できる」というプライスレスな価値を求めて、命をかけるまでのモチベーションに至らしめている例と言えます。良くも悪くも、好きになった女性のために命までかけてしまうのは「男のさが」ってやつですね。
このように、金銭的な価値と違って、プライスレスな価値は時にものすごいモチベーションを引き出すことにも繋がります。プライスレスな価値は代替が効かない唯一なものであるので、一度得たら手放したくないと思うのも、金銭的な価値とは大きく異なる点です。
では、社内においてプライスレスな価値を創造するにはどうすればいいでしょうか?
その方法のひとつは、「社員をヒーロー・ヒロインにする」という方法です。言い換えると「褒める」という方法。
社員の行動を褒めることでいい気分になり、褒められることが嬉しくて、仕事に取り組むモチベーションがアップする。というのは既に知られていることです。
これを「見える化」した「CIMOS」や「ホメテ委員会」のような取り組みは、マスコミなどで取り上げられていたりするので、ご存じの方も多いと思います。
この方法は即効性のある方法ではありませんが、新しい仕事に取り組む姿勢を、会社全体で褒め合う文化・下地ができてくれば、「嬉しい」というプライスレスな価値を得るために、自らチャレンジをしようとする、また、自ら率先して手を上げるという雰囲気が生まれてくるものです。「褒める」のにお金はかかりませんから、使わない手はありません。
人を「褒める」のはちょっと気恥ずかしいという抵抗感はあるかもしれませんが、それが当たり前になってくると、意外に気にならなくなるものです。
しかし、いきなり「今日から皆でお互いを褒め合いましょう!」などと言われても、さすがに引いてしまいますよね。何事も慣れないうちは、小さく始めるのが、上手く事を運ぶ秘訣です。それに、一介の担当者が、ウチの会社でも「褒め合う文化」を採り入れましょう!と声高に叫んだところで、スルーされるのがオチです。
何事も蟻の一穴からです
そこで、誰もがやりやすい方法としてオススメなのが、他の社員を褒めるという情報発信を自分がする。という方法です。これには、社内報や社員向けのWebサイトを利用するという方法が挙げられます。セキュリティ担当なら、社内にセキュリティに関する情報を発信する機会はあると思いますので、こういった機会を上手く利用されてはいかがかと思います。
自分で自分を褒めるのは自画自賛となってしまい、周りから煙たがられるだけですが、他の社員を褒める方法なら、褒められる方はまんざら悪い気はしないので、嫌がられることはありません。周囲も、あなたが褒めたことによってきっかけが作られるので、あなたに同調して誰かを褒める形なら、それほど抵抗感を感じずに行うことができます。
自らの意志で行うには抵抗を感じることをやってもらうには、「周りがやっているから」という言い訳を用意してあげるのが一番です。
これを日々繰り返し、褒められる経験をする社員が増えてくると、「褒めることが気恥ずかしいこと」というメンタルブロックが取り除かれていき、褒め合うということへの抵抗感が薄れてくることになります。このようになってくると、褒められることに嬉しさを感じて、自ら率先して手を挙げる人も出てくるものです。
実際には組織の大きさや文化的背景などから、そうなかなか上手くはいかなかったりしますが、「千丈の堤も蟻の一穴」から。あなたが誰かを褒め、そしてそれを続けるということは、蟻の一穴として、組織を変えていくことに繋がるはずです。
それに何よりも、褒められた方が嬉しい気持ちになり、モチベーションアップに繋がれば、それは決して無駄なことではないはずです。あなたが社内に発信できるメディアを持っている、もしくは、メディアを持つことが可能なら、他の社員を褒めるという情報発信をされることを是非オススメします。
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