標的型メールは見抜くことが難しい。は誤りです

不正行為を正当化させないために、今できること

会社でセキュリティ研修を受けていれば、「不正のトライアングル」という言葉を目にしたことが有ると思います。

不正のトライアングル不正にあたる行為の実行に駆り立てる「動機」、その行為を可能とする「機会」、そして、その行為を行うことを良しとする「正当化」、この3つが揃うことで、不正行為の発生を許してしまう。逆に言えば、この3つのうちいずれかを欠いてしまえば、不正は発生しないという考え方です。

ベネッセの顧客情報漏洩事件も、この3つが揃ってしまう状況を許してしまったためであることは、誰の目にも明らかでしょう。

このような話をすると、「機会」を持たせないための方法論として、システム系の話に流れたりするものですが、ここでは「正当化」に焦点を当ててみたいと思います。

それは誰にでもあり得ること

情報漏洩の犯人として逮捕された派遣社員の男性は、テレビの報道を見る限り、ごく普通の方のように見えました。奥さん・子供とアパートで暮らし、ご近所の方々にも普段から礼儀正しく挨拶をしていたそうですから、ごく普通の、人の良いシステムエンジニアなのだろうと推察します。

「お金が欲しかった」というのが動機だそうですが、家族を抱えていると、暮らしていくのはなかなか大変です。消費税などの税金ばかりか、物価も上がり、支出は増える一方なのに、給料は下がることはあっても増えることはなかなか無い。

そんな中、病気になったり、親の介護が必要になったり、事故に遭ったりと、突発的なトラブルなどがあれば、まとまったお金が必要になったりもします。リストラや倒産によって、突然、収入を失ってしまうといったこともあるでしょう。

そんな時、貯蓄でもあれば急場はしのげますが、長い人生を考えれば、お金の不安は尽きないものです。貯蓄があるにしてもないにしても、支出は増えても収入はそう簡単には増えないという構造にあっては、「お金が欲しい」という動機は、ちょっとしたきっかけで、誰にでも生まれ得るものだと考えられます。

彼と家族の最後の夜はどのようなものだったのか?

逮捕された男性が行った行為は、決して許されることではありませんが、それは、家族とのささやかな暮らしを守りたかったがための行為だったのだとすれば、それは身につまされる想いがします。

自分が犯人と公にわかれば、家族に害が及ぶとして、奥さんと子供は早々に引っ越しをしたようだと報道されていましたが、この直前、彼と家族はどのようにして最後の夜を過ごしたのでしょうか?

報道を見る限り、お子さんはまだ小さいようですから、この事件のことは当然わからないでしょう。毎日甘えていたお父さんが、ある日突然居なくなってしまうという状況はショックに違いありません。

そんな状況になることをわかりながら、彼はどのような気持ちで子供との最後の夜を過ごしたのか?そこには恐らく、筆舌には尽くしがたい想いがあったに違いないと考えます。

もちろん、彼がやってしまったことは、家族との暮らしを守るどころか、文字通り家族を地獄に突き落とすに等しい行為です。同情する余地もないことは言うまでもありませんが、それは恐らく、彼自身が一番よくわかっているのではないかと思います。

それだけに、家族と最後の夜を過ごした時の彼の気持ちを想像すると、胸が締め付けられる想いがします。

行為を正当化させないために、今できること

極端すぎるたとえかもしれませんが、今すぐお金を用意できなければ家族が死んでしまう。となれば、それが悪いことだとわかっていても、目の前にお金を手に入れる方法があれば、それに飛びついてしまう人は少なからずいると思います。

今は家族は助かるが、近いうちに地獄の苦しみを味わうことになってしまう道を選ぶか?それとも、家族は死んでしまうが、地獄に落ちるようなことはない道を選ぶか?

どちらも究極ともいえる選択ですが、会社側からすれば、前者は決して選んで欲しくないので、前者を選ばないような手立てを講じる事が必要です。しかし、個人のことを思えば、後者のような事にはなって欲しくないとも思うので、このような事にはならない道も模索したいものです。

追い詰められた個人が前者を選ばないようにするには、今は良くても、後々後悔することになることを、普段から強くイメージさせる事だと思います。

ベネッセの事件も、情報を盗み出す前に、彼が今のような状況になることを強くイメージできていたら、子供の顔を思い出して踏みとどまっていたかもしれません。100%思いとどまらせることはできないかもしれませんが、家族に想いを馳せるように導くことは、不正の抑止力として相応に機能してくれるはずです。

会社は、困っている個人に無関心でいるべきではない

そして、もう一つの手立ては、どんなに追い詰められた状況にあっても、助かる道はありうることを示すということでしょう。

今すぐお金を用意できなければ家族が死んでしまう。という道しかないのであれば、誰しも、不正をしてでもお金を用意するしかないと考えるのものです。そのような状況にあっては、不正の正当化を止める術はないでしょう。

しかし、もしかしたら、家族が死なないで済む道があるかも?と思わせることができれば、「一縷の望みに頼る」ではないですが、不正の正当化に至るのを防ぐことができる可能性が生まれます。

実際の事例なども紹介しながら、どんなに追い詰められたとしても、社内や社外に相談できる窓口が有り、救われる道があるということを普段から示すようにすれば、もはや不正に手を染めるしかない。などと思い込んでしまうことは防ぐことができるはずです。実際、そのような道があることを知らずに、思い込みから選択を誤ってしまう人は居るものです。

会社は個人のプライベートに立ち入ることはできませんが、立ち入らないようにすることと、無関心でいることは違います。

プライベートには立ち入らないまでも、困ったことがあったときには、いつでも手を差し伸べてあげられるようにする。従業員を大切にする会社としての姿勢を見せ、実際に行動として示すことは、結果として、不正を防止することにも繋がると思うのです。

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